「ちょっといい話があるんだけど、今度カフェで話せない?」
このLINEが来たとき、ぼくは嫌な予感がしなかった。先輩の誘いだったし、「副業を始めた」という話は少し前に聞いていた。収入の話なのかな、くらいに思っていた。
結論から言う。それはMLM(ネットワークビジネス)の勧誘だった。
ぼくは断った。断った後に何が起きたか、なぜ断ったか、あの説明会で感じた違和感は何だったか。誘われた側のリアルを包み隠さず書く。
この記事でわかること:
- MLM勧誘の具体的な手口(カフェ→説明会の流れ)
- 断り方と断った後の人間関係
- 「合法だが地雷と判断した」理由
「ちょっといい話があるんだけど」から始まった
誘ってきたのは3年付き合いのある会社の先輩だった
先輩とは同じ営業部で、入社のときからお世話になってきた。飲みに行く仲で、仕事の相談もしたことがある。だから最初に警戒しなかったのも、まあ当然だったと思う。
カフェに行くと、先輩は開口一番「最近、収入を増やす方法を見つけてさ」と言った。ぼくも当時、家計が苦しかった時期だったから、ぶっちゃけ「どんな話だろう」と前のめりになっていた。
10分ほど話を聞いて、「権利収入」「仲間と一緒に広げていく」「上に行けばどんどん入ってくる」というキーワードが出てきた。
ああ、これMLMだ、と気づいた。
「詳しい話は説明会で聞いてほしい」と言われ、3日後の土曜夕方に誘われた。「一回聞くだけでいいから」と言われたので、とりあえず行ってみることにした。
副業で稼いでいるという話の裏にあったもの
説明会に行く前に、先輩が最近よく言っていた「副業で稼いでいる」という話が、どういうことだったか少し整理できた。
ぼく自身も副業を探していた時期だったから、先輩のその話を聞いて「いい副業があるのかな」と羨ましく思っていたこともある。でも今思えば、あの言葉は「実績の証明」として機能するように計算されていたのかもしれない。
ちなみに、カフェで話している段階で「ネットワークビジネスだ」とは一言も言わなかった。「一緒に自由を手に入れる仲間を増やしたい」という表現を使っていた。その言葉の意味が、説明会に行くまでわからなかった。
説明会に行ってみて気づいたこと【MLMの実態】
会場の雰囲気と「成功者」の語り口
説明会は都内のレンタルスペース。参加者は15〜20人くらいで、先輩以外に知り合いはいなかった。
前半は「成功者」と呼ばれる人が5〜6人ほど、自分の体験を話した。「以前は月収30万だったが、今は不労所得で2倍になった」「子どもの教育費が心配だったが、今は余裕ができた」という話が続いた。
ぼくが感じた違和感をぶっちゃけに書くと、「全員の話が似すぎていた」ということだ。
テンプレートがあるのかもしれないとは思った。「苦しかった過去→出会い→変化→今の豊かさ」という構成がほぼ同じだった。感情の見せ方も似ていて、途中でちょっと声を詰まらせる場面もあった。それが本当の感情なのか、それとも練習なのか、ぼくには判断できなかった。
後半は具体的なビジネスモデルの説明。
ビジネスモデルを冷静に分解すると見えてくること
説明された仕組みは、おおまかにこうだった。
- 製品を購入し、自分でも使いながら人に紹介する
- 紹介した人が参加すると、その人の売上の一部がぼくに入る
- 紹介の輪が広がると、下の人数が増えるほど収入が増える
「権利収入」というのは、この「紹介のネットワークが育てば、自分が動かなくても収入が入る」という部分を指していた。
冷静に考えると、「下の人が増えれば増えるほど収益が増える」構造は、結局「どこかで誰かが損をする」形になる。ネズミ講と何が違うのかを確認したら「特定商取引法に則っているから合法」という答えだった。合法かどうかと、ぼくにとって良いビジネスかどうかは別の話だ。
また、最初に製品購入費(数万円)が必要で、「月に数件紹介できれば元が取れる」という計算が提示されたが、ぼくの周囲に紹介できる人間が何人いるかを想像したら、すぐに限界が見えた。
断ったときの先輩の反応と、その後の人間関係
翌日の月曜日、ぼくは先輩にLINEで「今は余裕がないし、自分には向いていないと思うのでやめておきます」と送った。
返信は「そっか、残念。また何かあったら声かけて」という短いものだった。表面的にはあっさりしていた。
ただ、その後から先輩との関係は変わった。
それまでは廊下で顔を合わせると軽く話していたのが、会釈くらいになった。飲みの誘いもなくなった。「また声かけて」と言ったわりに、声がかかることもなかった。
断って6ヶ月後、先輩が会社を辞めたと同僚から聞いた。理由は聞かなかったが、あの説明会を思い出した。
MLM勧誘を断るときに使えた言い方
ぼくが使ったのは「今は余裕がない」と「自分には向いていないと思う」の2つを組み合わせた言い方だった。
理由をあれこれ説明しなかったことが、たぶん良かった。
「ビジネスモデルが嫌いだから」と言うと相手に反論の余地を与えてしまう。「お金がないから」と言うと「少額から始められる」という回答が来る。「今は余裕がない」は否定でも批判でもないから、相手が言い返しにくい。
もしカフェや説明会に誘われた段階で断りたいなら、「今ちょっと予定が厳しくて」だけで十分だと思う。理由を詳しく説明すると、相手がそれを否定する返答を用意してくる。
一度断った後にまた誘われた場合
ぼくの場合は一度の断りで終わったが、複数回勧誘されるケースもある。そのときは「もう考えていない」「今後も参加しないと決めている」と、より明確に言う必要がある。
「また今度ね」や「もう少し考えます」は「まだ可能性がある」というサインとして受け取られてしまう。断るなら一度で、明確に、がコツだった。
断るときに罪悪感を持たなくていい理由
先輩のことを嫌いではなかったから、断ることに罪悪感があった。「せっかく紹介してくれたのに申し訳ない」という気持ちだ。
でも、よく考えると、断るのは「先輩を否定すること」ではなく「自分がやらないことを選ぶこと」だ。誰かの副業を「ぼくはやらない」と断ることは、相手の判断を否定しているわけじゃない。
そう思えるようになってから、断った後の罪悪感はだいぶ薄れた。
「副業でネットワークビジネスをすすめられたとき」の判断チェックリスト
経験から作ったリストを置いておく。
- 「いい話がある」「紹介したいことがある」という誘いで呼ばれた → 中身を確認してから動く
- 説明の中で「権利収入」「不労所得」「仲間を増やす」というキーワードが出た → 連鎖販売取引の可能性が高い
- 成功者の体験談がたくさん並べられている → 構造的に成功者は少数。その体験談が実態を表しているかは不明
- 「まず製品を買ってほしい」という話が出た → 参加費・初期投資の有無を確認
- 断ったときに関係が冷えた → 最初から「ビジネス目的」の誘いだった可能性が高い
これは「MLMはすべてダメ」という話ではなく、「勧誘を受けたときに冷静に判断するための軸」として使ってほしい。
まとめ:合法でも「地雷」と判断した理由
念のため書いておくと、MLM・ネットワークビジネスは日本の特定商取引法のもとで規制されている合法ビジネスだ。消費者庁も「連鎖販売取引」として認定している形態で、すべてが詐欺というわけではない。契約後20日以内はクーリングオフも使える。
ただ、ぼくが「地雷」だと判断した理由は主に2つ。
1つ目は、収益モデルが「人間関係を換金する構造」だから。 紹介できる人間の数には限りがある。親しい相手ほど紹介しやすいが、失敗したときに失うものも大きい。リスクの種類がぼくには合わなかった。
2つ目は、断った後の関係の変化が答えを示していたから。 純粋に「いいビジネスを紹介したい」という気持ちなら、断られても関係は変わらないはずだ。でも、関係が変わった。そこに「ビジネスの勧誘」としての目的が透けて見えた。
ぼくを責めているわけではない。先輩も本気でいいと思っていたんだと思う。ただ、その構造の中に入ることはできなかった。
MLMと副業の違いを考えるようになった
この経験から、ぼくは「副業」と「MLM」の違いを改めて考えるようになった。
副業の多くは「スキルや時間を提供して対価を得る」構造だ。ライティング、プログラミング、デザイン、ブログ。自分の能力に需要があれば収益が生まれる。
MLMは違う。「紹介ネットワークが育つかどうか」が収益の根拠であって、自分のスキルや提供価値よりも「下に何人つながっているか」が重要になる。それがぼくには馴染まなかった。
副業で「スキルを積む」という方向性を選んだのは、この経験のあとだった。遠回りに見えて、たぶんそちらの方が長持ちする。
勧誘を受けた後にやること
勧誘を受けた後、ぼくがやったことをひとつ書いておく。
説明会の帰り、気になってMLMのビジネスモデルをスマホで調べた。「連鎖販売取引 特定商取引法」で検索すると、消費者庁のサイトに詳しい説明が出てくる。
「なんとなく嫌だ」ではなく「どういう仕組みで、どんなリスクがあるか」を把握した上で断ると、断り方にも迷いがなくなった。感情だけで動くより、情報を持った上で判断する方が、その後も後悔しない。
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